大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 昭和57年(ワ)391号 判決 1987年11月27日

原告 久保逸郎

<ほか三名>

右訴訟代理人弁護士 菅野昭夫

同 鳥毛美範

同 北川忠夫

被告 北浜土木砕石株式会社

右代表者代表取締役 清田信一

右訴訟代理人弁護士 石嵜信憲

同 荒木迪夫

同 山崎利男

主文

一  原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

主文と同旨。

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和三七年一一月二四日に設立された、一般建設業、砕石製造及び販売、土砂採取販売業を営む株式会社である。

2  原告らは被告会社の砕石部門に自己の保有する一〇トンの大型貨物自動車(以下「ダンプ」という。)を持ち込んで砕石等の運送に従事する者であり、原告久保逸郎は昭和五二年四月に、同松本健治は昭和五三年四月に、同角谷慶三郎は昭和五四年三月に、同荒谷隆は昭和四八年四月に、それぞれ被告とダンプ持込み運転手として右運送に従事する旨の契約を締結した(以下原告らと被告とのこれらの契約を「本件契約」という。)。

なお、原告らは、昭和五六年五月二六日、総評全日自労建設一般労働組合石川県本部北浜土木砕石分会を結成し、その組合員となっている。

3  本件契約の法的性質は労働契約であり、原告らは労働法(労働基準法九条、労働組合法三条)上の労働者にあたる。その理由は以下のとおりである。

(一) 一般に、ある労務供給に関する契約が労働契約にあたるか否かを判断するについては、契約の形式にとらわれず、当該契約当事者間に労務提供について実質的使用従属関係があるか否か、換言すれば使用者の指揮監督のもとに労務提供がなされ、その一般的な指揮監督下に組み込まれていると評価しうるか否かによって判断しなければならない。そして、この実質的使用従属関係の有無の判断に当たっては、契約締結時における使用従属関係、労務遂行過程における使用従属関係、当該労務提供者の専属性及び代替性についての検討が必要である。

(二) 契約締結時における使用従属関係の有無については、原告らは運送賃金を唯一の生活の糧としているばかりか、労働手段たる自己保有のダンプの維持、月賦代金の支払、短期償却の負担があって経済的に弱い立場にあるため、被告との本件契約締結時には、被告が提示した労働内容、労働時間等の条件(後記(三)参照)をそのまま承諾して雇われざるを得なかった。また、賃金体系や支払方法や額についても被告が一方的に指示し、原告らはこれをそのまま受け入れてきた(なお、賃金の支払方法は三分の二を現金で、三分の一を手形で支払うものであり、労働基準法二四条に違反する。)のであって、賃金額について原告らのほうで希望を述べ、話合いがなされたことはあるが、結局は被告が一方的に押し付けた額に従うほかはなかった。そして、被告が原告らに仕事を与えるか否かは全く自由であったにもかかわらず、原告らにおいて被告から発注された仕事を拒否する自由はないに等しく、原告らにおいて、被告の主張するように賃金が安いからといって運送を拒否したようなことはない。

従って、原告らについては仕事の依頼、労務従事に対する諾否の自由は事実上否定されており、原告らと被告の間には、契約締結時における使用従属関係があった。

(三) また、以下の事情によれば、原告らと被告との労務遂行過程における使用従属関係の存在も明らかである。

すなわち、原告らの被告会社における労働内容は、被告会社の砕石生産基地である我谷工場から砕石販売基地である黒瀬工場への砕石等の運送(通称「山おろし」)、我谷工場から各地への砕石の配達運送(通称「配達」)、並びに土木部門の土砂・廃材等の運送(この中には一日単位で賃金を計算する、通称「貸切」と呼ばれる形態があった。)の三つの態様があったが、これらのうちいずれを行なうかは被告が一方的に決定し、原告らはこれに従うしかなく、被告の労働内容についての指示を拒否したり、労働内容を選択したりすることはできなかった。

また、労働時間は午前八時から午後五時までと取り決められており、原告らは毎朝必ず我谷工場に出勤することとされており、遅延や欠車の場合には前日までに被告に連絡しなければならなかった。そして、原告らの運送労働は被告の指示する方式(タイムカード打刻、伝票作成、日報の作成提出等)を守らなければならなかった。

さらに、走行経路や走行方法も被告の指揮下にあり、原告らは、山中町公害対策委員会の要請により、原告ら所有のダンプに被告の支配下にある自動車であることを表示するステッカーを貼ることを被告に指示され義務づけられており、走行経路についても、被告は必要に応じて原告らに指示してきた。このように走行経路さえ指示されるということは、仕事の内容や方法について本来自由な裁量権を有している請負とはおよそ矛盾することである。

被告の砕石部門の営業期間は雪のない毎年三月から一二月までであるが、原告らはそれ以外の期間は自宅待機を指示され、被告の指示により、積雪がない場合は運送労働に従事し、積雪がある場合は除雪、排雪の労働に従事していた。そして、右自宅待機の期間中、原告らは第三者の依頼による運送に従事することは厳重に禁止されていた。

そして、原告らは、土砂等の運送に当たり、被告から重量制限違反の違法な過積載を強制され、ダンプ一〇トン車に対し六ないし七トンの超過が常態となっていた。運送の賃金は運送量ではなく回数で計算されているのであるから、過積載により原告らの賃金が多くなるということはなく、過積載をすることは原告らに何らの利益ももたらさないばかりか、燃料消費や車両の損耗、事故や検挙の危険等原告らにとって不利なものであるにもかかわらず、それが常態となっていたということは、被告が原告らに対して圧倒的に優位な力関係を保持し、原告らを支配し従属させていたことの証左である。

なお、このように原告らの労務遂行が全面的に被告の指揮監督下におかれていることは、原告らの運送労働が被告企業の重要な事業活動の一環を分担していることに由来する。すなわち、被告は、土木建設業及び砕石生産販売業を主要な業態とするが、このうち砕石部門は我谷工場で生産した砕石を黒瀬または桑原の基地へ運搬し、さらに砕石を購入する顧客へ配達するのであり、これに携わる原告らの運送労働は被告にとって不可欠のものである。また土木部門も、それが必要とする砕石、土砂などを運搬することなくしては成り立たない。従って、かつては被告会社自らが大型ダンプ等を保有し、運転手を雇傭していたが、合理化の結果、これを原告らのようなダンプ持込み労働者(いわゆる傭車運転手)に肩代りさせるに至ったのである。現に、原告らの労働内容、労働時間、運送方式、走行方法、積載重量等は現在もなお残されている被告保有車両の二名の運転手と何ら異るところがなく、原告らは被告の従業員である運転手と同じ労務を提供している。

(四) 専属性及び代替性の点については、原告らは被告に対し専属的に労務を提供することが義務付けられているし、またこれまで原告らが他人を自己に代わって就労させたことはなく、原告らの労務提供には代替性もない。なお、後記4の和解においていわゆる専属条項が入れられた(後記4(二)参照)けれども、この専属性は右和解で初めて本件契約に附与されたのではなく、従前から原告らは被告に専属的に労務を提供してきたものであって、右和解においてこのことが明確にされたにすぎない。

(五) ところで、被告は労働者性の有無の判断に当たって実質的使用従属関係の外に事業者性の要件の検討の必要性も主張するが、ある契約について実質的使用従属関係が認められれば、当該契約を労働契約と認めるに十分であって、本件契約において原告らの事業者性を強調してその労働者性を否定する被告の主張は、その前提において失当である。原告らの運送労働は、前記のように被告の事業活動の一環に組み込まれ、傭車運転手そのものが被告の事業の不可欠部門を構成しているのであるから、原告らが高価なダンプを保有していることは、原告らが労働者であるとすることの妨げとはならない。なお、後記のいわゆる三省の「取扱い案」も本件契約のような形態の労務供給契約につき労働契約性を肯定している。

仮に労働契約性の判断にあたり事業者性の検討を要するとしても、原告らは月額約八〇万円以上の収入を得ていたのと同時に月額六九万四〇〇〇円の諸経費を負担していたのであって、これを控除するとその実質所得は二〇万円ないし三〇万円となり、原告らは何ら高額な所得を得ていない。従って、収入額の面からみても、原告らがダンプを所有していることをもって、その事業者性を肯定することはできない。

4  原告らは、昭和五六年五月一六日被告から解雇を通告されたため、その地位保全及び賃金の仮払を求めるため金沢地方裁判所に地位保全賃金仮払仮処分を申請した(同庁昭和五六年(ヨ)第一八七号)が、同年八月二九日、原告らと被告との間で訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。その和解条項の一部は次のとおりである。

(一) 被告は本件仮処分事件の原因となりたる原告らと被告の契約関係を解消する旨の被告の意思表示を、本日これを撤回し、原告らと被告は、今後、従来の契約関係を継続する。被告は原告らを昭和五六年九月一〇日までに就労させることとする。

(二) 原告らは被告に専属して労務を提供する。被告は原告らに優先的に仕事を供給する。ただし、原告らは本条項を根拠にして正当な理由なく、他の同一形態の運転者の就労を排除してはならない。

(三) 原告らと被告は、契約条件について、今後、誠実に協議する。

5  ところが、被告は、右和解の後、原告らに対し、昭和五七年三月二五日到達の「契約解除通告書」なる書面をもって、要旨次のような理由により本件契約を解除する旨の意思表示をした(以下これを「本件解雇」という。)。

(一) 原告らは貨物自動車運送事業の免許を有せず、その所有するダンプはいわゆる白ナンバーのものであるところ、今般名古屋陸運局長から昭和五六年一一月九日付文書をもって、白ナンバーの自家用貨物車を使用し、有償で他人の土砂を運送することは、道路運送法四条、四五条または一〇一条に違反して処罰の対象となり、その場合被告も処罰を受けることがある旨の指摘を受けた。

(二) そこで、被告は、昭和五七年三月三日付内容証明郵便をもって、①原告らにおいて貨物自動車運送事業の免許を取得すること、②被告と土砂売買契約等を締結して原告らの地位を自営業(いわゆるマル販)とすること、③自家用ダンプを持ち込まないで臨時の労働者として働くこと、のいずれかを原告らに提案した。

(三) しかし、原告らは、右提案に対し格別の応答をせず、被告としても右の名古屋陸運局長からの指摘もあり、原告らとの自家用ダンプ持込みによる有償土砂運送契約をこれ以上継続することは前記法条に反する違法行為を繰り返す結果となるので、右契約を解除する。

6  しかし、本件解雇は、以下に述べるとおり正当な理由を欠くから無効である。

(一) 被告のいう解雇理由は、原告らのダンプ持込みの運送労働が道路運送法四条、四五条、一〇一条に該当し、その旨の指摘を名古屋陸運局長より受けたということである。しかし、原告らは被告との関係では労働法上の労働者であり、労働契約上の労務を提供してその対価たる賃金を得ているのであるから、道路運送法四条、四五条の一般または特定自動車運送事業を経営する者にあたらず、同法一〇一条にいう自家用自動車を有償で運送の用に供した場合もしくは業として有償で貸し渡した場合にもあたらないから、原告らの運送労働は何ら右各法条に抵触しない。

(二) また、被告が名古屋陸運局長より指摘を受けたとする文書(昭和五六年一一月九日付名陸自貨二第九二九号)においては、単に前記法条が一般的に説明されているにすぎず、具体的に原告らの労働が前記法条に触れる等という判断は何ら示されていない。すなわち、右文書においては原告らを雇用してはならない旨の行政指導がなされているわけではない。

(三) 被告は、本件和解後、新聞で白ナンバーの違法問題が報じられ、心配になって陸運局へ照会状を出したと主張するが、同年八月二九日から九月二五日までの間に白ナンバーの違法を報じた新聞記事は存しない。また、被告は原告ら以外の白ナンバーの傭車を現に使用している。さらに、被告はあたかも遵法精神を盾に白ナンバーの違法を主張しているのであるが、その一方で原告らに違法な過積載を強要しているのであって、このような態度は自己矛盾というのほかはない。

7  また、以下の理由によれば、本件解雇は信義則に著しく反し、解雇権を濫用したものであって無効である。

(一) 本件解雇は、原告らに何らの非違行為もないのになされたまことに異常なものである。本件解雇は原告らの生活を危殆に陥れるものであるが、そのような効果を原告らに押し付けるべき帰責事由は原告らには全く存しない。

(二) そもそも被告は本件和解において原告らとの従来の契約関係を継続することを確約している。そして、右和解の時点以前から今日まで原告らのダンプ持込みの運送労働という労働形態は何ら変わっていない。被告は、その点を問題とすることなく右和解に応じたのであるから、右の労働形態につきいわば不問に付することを約したに等しいものというべく、それにもかかわらずその後において道路運送法との関係を問題にして解雇するが如きは著しく信義則にもとるものというべきである。

(三) もともと原告らのような傭車運転手に対し、行政当局が道路運送法四条、四五条、一〇一条違反を理由に取締を行なうような事態は皆無であった。原告らのような傭車運転手は膨大な数にのぼるのであり(例えば昭和五四年一二月現在でダンプカー保有状況は二〇万八四二〇台で、そのうち七〇・八六パーセントがこのような労働形態である。)、我が国の経済発展に不可欠の役割を果している。こうした状況からいっても、被告において原告らを雇傭していくことには何らの支障もなかった。

ところが、被告は、本件和解で原告らを今後も雇用していくことを約束した直後に、これを覆し、原告らを何とか放逐しようと企て、自ら解雇理由を作り出そうとして、昭和五六年九月二五日付け石川県陸運事務所長宛の、また同年一〇月二日付け名古屋陸運局長宛の各照会書を発し、右各行政当局が原告らを使用することを何ら問題としていないのに自らこれを問題にしてほしい旨の意思表明を行なった。その回答として本件解雇の理由に挙げられている名古屋陸運局長の前記文書が発せられたが、これは前記条文を一般的に説明したに止まり、原告らを使用することが右各条文に違反する旨の具体的見解または行政指導は示されていなかった。しかるに被告は右の回答を不当に利用して、前記のような理由で原告らに対し本件解雇を強行したものである。被告がかような行動に出ていなければ、原告らとの関係が平穏、円満に継続することに何らの支障もなく、このようなあえて平地に乱を起こすが如き本件解雇は、信義則上到底容認しえない。

(四) なお、本件解雇後、総理府、労働省、運輸省は原告らのようないわゆる傭車運転手の取り扱いについて、右三省の行政指導の今後の方向を明確化し、調整するための「車持ち労働者として雇傭されるダンプカー運転者に係る取扱い案」を作成するに至った。右「取扱い案」はまだ確定したものではなく、行政通達が発せられてその効力を生ずるものであるが、これまで法が予想していなかった傭車運転手について、三省の今後の行政指導の方向を明確化させたものということができる。この案の基本的な考え方は、自家用ダンプを所有する運転者が、特定の事業場の事業主にその所有にかかるダンプを貸し渡すことにより当該ダンプを使用収益する権利を譲渡したうえ、当該事業主の指揮監督のもとに就労し、その労働の対償として賃金の支払を受ける場合には、労働基準関係法令の適用にあたり、当該運転者は当該事業主のために使用される労働者として取り扱うものとするというものであり、事業主と支配従属関係にある傭車運転手について、その保有するダンプを使用収益する権利を事業主に譲渡させることによって当該運転手を労働基準法上の労働者として取り扱い、かつ道路運送法上も使用収益権譲渡の手続として同法一〇一条二項の「有償貸渡しの許可」を得させることによって完全に合法と取り扱うという内容となっている。すなわち、もし被告が原告らを使用することについて道路運送法との関係を問題とするのであっても、右取扱案に沿って原告らと被告との契約関係が手直しされれば、右契約は道路運送法上も完全に合法となり、もはや被告が本件解雇の理由として主張する同法上の問題点自体も前提を失うこととなる。そこで原告らは、本件解雇をめぐる紛争を円満解決すべく、右案に沿って本件契約を手直しすること及びそのための話合いをすることを、昭和五七年一二月二七日付文書をもって被告に申し入れた。このような今日の状況のもとにおいては、もはや前記の如き理由をもって本件解雇を強行することはますます解雇理由を欠き、信義則を無視した権利の濫用となることは明白といわなければならない。

8  よって、原告らは、原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、原告らが自己の保有する一〇トンのダンプを使用して(持込みではない。)、原告松本健治は昭和五三年四月から、同角谷慶三郎は昭和五四年三月から被告の土砂等の運送を行なっていることは認めるが、原告ら主張の労働組合の結成及び資格については不知、その余は争う。

3  同3のうち、原告らと被告が労働契約関係にあること、原告らが労働法(労働基準法九条、労働組合法三条)上の労働者にあたることは争う。

4  同4のうち、被告が原告らに対し昭和五六年五月一六日運送業務の発注を中止する旨の意思表示(解雇の通告ではない。)をしたこと、原告らがその主張の仮処分申請をなし、本件和解が成立したことは認める。

5  同5は認める。

6  同6について

冒頭主張のうち、本件解雇が正当理由を欠いて無効であるとの点は争う。

(一)及び(二)は争う。

7  同7について

冒頭主張のうち、本件解雇が信義則に著しく反し、解雇権の濫用として無効であるとの点は争う。

(一)及び(二)は争う。

(三)のうち、後段は争う。

三  被告の主張

1  原告らはいずれも独立の事業主体であって労働者ではなく、本件契約は土砂及び砕石等の運送請負契約または運送契約であって労働契約ではないから、本訴請求はいずれも失当である。その理由は以下のとおりである。

(一) 被告は、原告らと、まず、本件契約として期間を毎年三月から一二月までと定めた基本的運送契約を締結した。その締結時期は後記(四)(2)のとおりである。この基本契約は、後記の個別的契約が成立する際の基本的な契約条件を明らかにしたものにすぎず、これにより被告及び原告らに日々の運送業務の発注及び受注の義務を負担させるものではない。そして、この基本的契約を前提として、被告は、会社の業務上の必要性に基づき、一日ごとに原告らに対し具体的に運送内容を特定して砕石等の運送を発注し、原告らにおいてこれを受諾して初めて個別的運送契約が成立し、原告らは目的地まで砕石等を運送する義務を、また被告は運賃を支払う義務を負担するに至る。その業務内容の種類は請求原因3(三)に三態様として記載されているとおりである。

(二) ところで、ある労務供給契約が労働契約であるか否かについて判断するに当たっては、原告らの主張する使用従属関係の有無等よりも、事業者性の有無、すなわち、当該労務提供者が生産手段を保有するか否かの点が重視されなければならない。

(三) そうであるところ、以下の事由によれば、原告らはいずれも生産手段を有し、被告との関係において事業者性を有するから、労働者にはあたらないというべきである。

(1) 原告らの如き傭車運転手にとってダンプは必要不可欠な手段・設備であるが、現在その価格は新車で一〇〇〇万円近くもするものであり、この購入代金は企業設備への資本投下と評されるものであるから、原告らの保有するダンプはまさに生産手段というべきである。原告らは、事業主体者としてこのダンプを購入して管理支配し、その修理代、ガソリン代、タイヤ代等の費用をすべて負担し、車両の償却もなしており、また契約履行期間中においても右ダンプを被告に賃貸することはなく、車のキーは原告らにおいて所持しており、車庫も原告らが自主的に定めた場所にあり、またダンプには後記(4)のとおり指定を受けた表示番号が表示され、小さなステッカーが貼られているだけで、被告会社の社名はもちろん、被告会社の業務に専属していることを窺わせるような何らの標識も施されておらず、被告は右ダンプにつき管理権、支配権を有していなかった。

すなわち、原告らは、いわゆるマル販と称する土砂等の販売を業とする独立の事業主体であり、それぞれダンプを保有し、これを使用して被告らのような土砂等の採取販売業者から土砂等を購入し、他にこれを転売するのを業としており、いずれも自己の計算及び自己の危険と責任において土砂等の運送をする事業を営んでいたものである。

(2) 報酬の点からみても、原告らと同種の業務に従事する被告の正規社員の昭和五五年当時の賃金は月平均一八万円であったのに対し、原告らは月二三日ないし二五日稼働すれば八〇万円ないし一〇〇万円もの出来高を得ることができたのであり、この報酬額は、事業者に対する運送代金の支払と考えられる金額である。なお、右報酬が賃金であるか事業者に対する運送代金であるかを判断するに当たっては原告らの実質所得の額は問題ではなく、被告より支払われる金額で判断されるべきものである。けだし、事業者だからといって常に実質所得の額が労働者より高額であるとはいえないものであり、原告らは自己の計算によって諸経費を節約することにより実質所得を増すことも可能であったからである。

(3) 事業者性を示す顕著な徴憑としては、景気の動向等により、さらに多くの資本を投下して生産手段であるダンプを複数保有し、従業員を雇傭することにより自己の事業の拡大を図り、あるいはダンプを減少させて事業の縮小を図る等の自己の計算による稼働が自由な点が挙げられるところ、もと本訴における原告であった訴外中島誠一は、本件契約締結当初は三台のダンプを保有し、他の運転者を従業員として雇傭して、被告の運送業務を遂行していたものであり、換言すれば、同人は他人の労働力を商品として買い受け、その労働力を自己のダンプに結び付けることにより事業を営んでいた。すなわち、中島誠一はまさにこの徴憑を備えていたところ、原告らも中島誠一と同様の方法を採りうる立場にあったものである。また、原告らは、他のダンプを保有する業者と随時運送契約を締結し、この業者に被告における作業を遂行させることもできたのであり、現に原告らはこのようにしていた。

(4) 原告らがその自営の土砂等販売業に大型貨物自動車を使用するについては、道路運送法九九条、同法施行規則(昭和二六年運輸省令七五号)五九条、土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法(昭和四二年法律一三一号。但し、昭和五九年法律六七号による改正前のもの。)三条、一七条に基づき、運輸大臣の委任を受けた石川県知事に対し、自己が経営する事業の種類、規模、ダンプの登録番号、社名、最大積載量及び車庫等を届け出て、当該ダンプについて「表示番号」の指定を受けなければならないところ、原告らは、それぞれ土砂販売業という独立の事業主体者として、平素その事業に使用するダンプにつき、石川県知事から指定を受けた表示番号をその保有するダンプの見易い箇所に表示して(同法四条)、これを使用している。また、原告らは、電話帳、領収証において自己の職種を土砂等販売業または建材業と表示しており、いわゆるマル販の独立の事業経営者として、監督官庁に対し法律の定める業態の届出をし、事業所得の申告をし、砂利販売業者としての営業証明書の発行も受けている。

(5) なお、原告らが主張する「車持ち労働者として運用されるダンプカー運転手に係る取扱い案」は、ダンプを生産手段と認定し、その生産手段を保有して稼働する者は自営業者であるということを基本的前提としているものである。すなわち、右の案は、自家用ダンプを所有する者が当該ダンプを自ら運転し、かつ、自らの計算と危険負担において土砂等の運搬を行なう場合には当該運転者は独立した事業者すなわちいわゆる自営業者と考えられるが、自家用ダンプを所有する運転者が特定の事業場の事業主にその所有にかかるダンプを貸し渡すことにより当該ダンプを使用収益する権利を譲渡したうえ、当該事業主の指揮監督のもとに就労し、その労働の対償として賃金の支払を受ける場合には労働基準関係法令の適用に当たり当該運転者は当該事業主の事業のために使用される車持ちの労働者として取り扱うとするものである。

(四) さらに、以下の事由によれば、原告らと被告との間には原告らの主張する使用従属関係も存在しない。

(1) 使用従属関係の有無の判断に当たっては、当該労務提供者の仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督関係の有無、当該労務提供者に対する拘束性、当該労務提供者の代替性の有無及び報酬についての労務対償性の有無が検討されなければならない。

(2) 原告久保逸郎は昭和五四年三月から、同松本健治は昭和五三年四月から、同角谷慶三郎は昭和五四年三月から、同荒谷隆は昭和五五年四月からそれぞれ被告の土砂等の運送業務を行なっていたものであるが、その業務開始に当たっては、いずれも独立の事業経営者として自由な選択のもとに前記(一)のとおり口頭で概括的な基本的契約を締結し、原告らはこれに基づいて日々具体的、個別的契約を締結して運送の対価を定め、被告の土砂等の運送業務を遂行していたのであって、この個別的契約については前記のとおり被告も原告らも締結するか否かの自由を有していた。

そして、原告らについては就業時間の定めはなく、原告らは、突如当日事業を休もうが、遅く業務に従事し、あるいは早く終了しようが自由であった。ただ、被告の業務との連係を保ち、被告の業務の混乱を回避し、合理的な業務の遂行をするため、被告は原告らの遅延、欠車につき予め連絡するよう要望していたにすぎない。現に、本件契約においては三種類の運送業務態様があったが、原告らは砕石について「山おろし」以外の業務については採算が合わないとしてこれを拒絶することが多く、ことに土木部門の土砂運送についてそれが顕著であった。また、原告らには運送日数、回数につき何らのノルマも課されていなかった。

要するに、原告らは、自己の計算で自己の稼働日数、稼働額を決定しえ、被告との間において就労義務を課されていなかったものであって、仕事の依頼、業務従事の指示等に対し諾否の自由を有していたものである。

なお、原告らの主張する契約時における従属関係は、被告に対する経済的従属関係を意味するものにすぎない。すなわち、この意味における従属性は意思決定における従属性をいうのであって労働の従属性ではなく、それは労働契約以外の例えば請負契約においてもみられるものであり、この意味での従属性の存在をもって原告らが被告に対し使用従属関係にあったとすることは相当でない。仮に原告らが経済的、社会的に弱く、契約条件が被告から一方的に決定されたとしても、このことについての原告らの保護は経済法の課題というべきである。

(3) 被告の原告らに対する業務遂行上の指揮監督関係の有無については、被告は原告らに対し運送物品、運送先及び納入時刻(得意先より特に時間指定がされた場合)を指示することはあっても、走行経路、出発時刻の管理、運送方法の指示を行なったことはなく、業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令関係は存在しなかった。もっとも、原告らは、業務の遂行にあたりダンプにステッカーを貼ることとされていたが、これは被告の土砂採取場から山中町を通過する際、同町公害対策委員会の要請により、どこの採取場からの車両であるかを明らかにすると同時に万一交通事故が起こった場合の責任の所在を明確にするために取られた措置であって、このことをもって被告が原告らを支配従属させていたとはいえない。また、被告は原告らに対し、昭和五七年三月、山田砕石場からの運搬については近道である西山田町を通過しないよう指示したことはあるが、これは同町の区長から交通災害の防止のため強い要請があったことに基づくものであり、被告において原告らの業務遂行を管理する目的あるいは被告が運送経路を指定することにより自己の経費を節減するというような目的に出たものではないし、被告はこのような指示も昭和五三年以降せいぜい二回程度しか行なっていない。

また、被告は原告らに対し運輸業者が従業員の運送を管理するため一般に提出させているタコメーターグラフの提出を求めていない。原告らが作業日報を作成すべきものとされていたのは、法律により、原告らが被告の土砂等の運送業務に従事した限りにおいてその作成を義務付けられており、被告が将来の運送対価の清算の際の正確性の確保と便宜を考慮したためであるにすぎない。

原告らは過積載の事実をもって労務遂行過程における従属性を主張するが、一回の運搬代金は過積載の状態での運送量によって決定されるものであり、このことをもって右の従属性を根拠づけることはできない。

なお、原告らは集金、受注その他の被告会社の内部業務を担当せず、土砂等の運送による納品とその報告のみであって、被告が原告らをこれ以外の被告の他の業務に依頼ないし命令等により稼働させたことはない。このことは、原告らの運送業務及びその余の被告の業務の全体を通じて原告らが被告の指揮監督を受けていることを否定する一事由といえる。

被告にとって砕石運送の手段が必要不可欠であることは事実であるが、その具体的手段をどのように選択するかは会社の自由であって、例えば被告は、原告らに運送を依頼するかわりに会社自身がダンプを保有して運転手を雇傭することも可能である。従って、被告会社の事業活動に砕石運送の手段が必要不可欠であるからといって、原告らが被告の事業活動に必要不可欠とはいえず、被告が原告らをその事業に全面的に組み込み、全面的な支配下におくべき必然性はない。

(4) 原告らの拘束性の有無については、被告は、原告らに対し荷受け場所及び荷下ろし場所を指定するだけであり、勤務場所及び勤務時間の指定を行なっていない。原告らが朝、我谷工場に赴くことが多かったのは、その受注業務の半分近くが我谷工場から黒瀬工場への「山おろし」であったことに基づくものであり、被告が勤務場所を我谷工場と指定したことによるのではない。原告らが被告との間で土砂等の運送をするに当たり、その区域や対価につき約定され、それに拘束されていたとしても、それは原告らが被告と対等の立場で締結した契約に基づくものであるし、被告が右契約の履行につき原告らに指示または指図することがあっても、その当否は原告らが自己の責任で判断すべきものである。

(5) 代替性については、もと原告の中島誠一はダンプを複数保有し、従業員を雇傭することにより複数のダンプを稼動させていた。被告は、中島誠一がどのような人を雇傭するかにつき一切関与せず、同人の雇傭した従業員の運転するダンプに運送を発注した。すなわち、被告と原告らとの契約について人的要素は問題とされておらず、原告らの稼働については代替性が認められていたのであり、このことは、被告の原告らに対する労務遂行過程における使用従属関係の存在を否定する一事由というべきである。

(6) 原告らの報酬はすべていわゆる出来高制であって生活補償的要素は全くなく、その労務対償性は低い。そして、運送の対価は原告らのなした運送の実績により支払われ、月額定額支払とはなっていない。また、右対価も全額現金で支払われないで、一部約束手形で決済されている。原告らが被告の土砂等を運送している限りにおいては被告から受ける運送の対価が原告らの生計費に充てられたものと考えられるが、原告らはいつでも被告との契約を解消させ、他の業者から土砂等の運送契約の依頼を受けたり、自ら土砂販売業を営むことができるのであり、原告らにおいて被告の作業に従事することが、常にその生活を維持するために必須のものとはいえない。

(五) 以上の検討の外、労働者性の判断にあたっては労務提供者の専属性の有無についても検討しなければならないが、原告らはいつでも本件契約を解消させ、他の業者とさらに有利な契約を締結する自由を有していたものであり、また右契約期間中であっても、原告らは被告以外の他の業者の土砂を運送する自由を有していたのであるから、原告らには被告に対する専属性はなかった。現に、原告らは、被告の依頼した土砂等の運送業務が採算に合わないときはこれを拒絶することも多く、または被告からの業務がない期間(主として冬季の降雪時)には、地方公共団体の除雪、排雪作業の発注を受けたり、または被告以外の同種業者の発注により、土砂等の運送業務を遂行し、さらに原告荒谷隆は土砂販売業者から土砂を購入し、これを他へ転売していた。

また、専属性の判断に当たっては、本件和解において従来の契約関係を継続するとの合意の範囲内で、原告らに優先性と専属性が附与されたにすぎないのであって、本件契約が労働契約か否かの判断に当たっては、右和解以前における原告らの稼働実態により判断しなければならない。そして、本件和解以前には原告らは他社稼働も自由であり、右和解において初めて本件契約に専属性と優先性を附与したものであるから、右和解以前には原告らは被告に専属していなかったものというべきである。

(六) なお、原告らは被告の従業員名簿、賃金台帳に登載されず、厚生年金、労災保険、源泉徴収税の適用もなかった。原告らには被告の就業規則は一切適用されず、原告らは被告の物的設備の貸与を受けることはなく、また被告の本来の従業員と同様の福利厚生を受けていなかった。

2  原告らはその保有するダンプによる物品運送事業についての法定の免許を受けていない。ところが、前記和解成立後の昭和五六年一〇月下旬頃から、被告以外の訴外株式会社ツバメ観光等の業者が、右の免許を得ていない、いわゆる白ナンバーの車両を使用して旅客または貨物の運送業務をなし、それが自動車事故を起こしたことを契機として、違法な運送事業の容疑により警察当局の取り調べを受けて送検された旨の新聞記事が再三掲載された。そこで、被告としては、原告らと右のような契約関係にあることは場合によっては違法な行為とされることを懸念し、昭和五六年一一月上旬頃及び昭和五七年二月頃に、監督官庁の名古屋通産局に照会したところ、そのつど、白ナンバーのダンプを使用して土砂等の運搬、運送行為を反復することは、当該運転者の他、場合によっては運送を依頼した業者も処罰されるおそれがあることが判明した。また、名古屋陸運局からは昭和五六年一一月九日付けで、一般的解釈付ではあるが、自家用貨物自動車を使用して他人の貨物を運賃等を収受して有償で運送した場合には道路運送法四条もしくは同法四五条または同法一〇一条に違反する旨の回答を得た。その後、被告は電話で何度か名古屋陸運局に対し、原告らとの契約関係を十分説明したうえで、その適法性につき回答を求めたところ、昭和五七年二月二六日、電話で明快に原告らの使用を禁ずる旨の指導がなされ、さらに同年三月一日被告代表者が同局を訪問して同局の見解を求めたところ、一部不明瞭な点はあったが、結論的には右の電話の内容通り原告らの使用を禁ずる旨の説明がなされた。そこで被告は、昭和五七年三月三日付けで原告らに対し土砂売買契約を締結するよう申し入れたが、全く無視されたため、これ以上違法行為を継続できないとして同月二四日付の契約解除通告書により、最終的にそれまでの土砂等の運送契約を解消する旨の意思表示をしたものである。従って、右の意思表示は有効である。

第三証拠《省略》

理由

一  本件の経緯

《証拠省略》によれば、被告は昭和三七年一一月二四日に設立された一般建設業、砕石製造及び販売、土砂採取販売業を営む株式会社であること、原告久保逸郎は昭和五二年四月に、同松本健治は昭和五三年四月に、同角谷慶三郎は昭和五四年三月に、同荒谷隆は昭和四八年四月にそれぞれ被告と本件契約を締結し、これに基づいて自己の保有するダンプを用いて被告の土砂等の運送業務に従事していたこと、原告らは、昭和五六年五月一六日被告から右契約の解消を通告されたため、その地位保全及び賃金の仮払を求めるため金沢地方裁判所に請求原因4記載のとおり仮処分を申請したが、同年八月二九日、原告らと被告との間に同記載のとおり本件和解が成立したこと、ところが被告は、昭和五七年三月二五日到達の書面をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことが認められ(以上のうち、被告が右認定のような株式会社であること、原告松本健治が昭和五三年四月から、同角谷慶三郎が昭和五四年三月から被告の土砂等の運送業務に従事していること、原告らが昭和五六年五月一六日被告から本件契約の解消を通告されたこと、並びにそれ以降の事実は、当事者間に争いがない。)、この認定に反する証拠はない。

二  本件契約の法的性質について

ある労務供給に関する契約が労働契約に当たるか否かは、当該契約の形式にとらわれることなく、労務提供者と契約の相手方との間に実質的な使用従属関係が存在するか否かによって判断すべきであるというべきところ、その実質的使用従属関係の有無の判断に当たっては、一般的には、契約内容の決定時における支配従属関係の有無、業務の依頼に対する労務提供者側の諾否の自由の有無、労働遂行過程に対する支配従属関係の有無等の諸点の検討を要するものである。

しかし、本件のようないわゆる傭車運転手の労働者性が問題となる事案においては、傭車運転手が通常高額の車両を保有していることから、右の諸点の他に、当該労務提供者が自らの計算と危険負担において業務を行なうものであるか否か、すなわち事業者性の有無をも勘案しながら右実質的使用従属関係の有無を考察しなければならないというべきである。

2 そこで、まず本件契約における事業者性を除くその余の諸点について検討する。

(一)  《証拠省略》によれば、以下の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1)  本件契約の内容の決定については、原告らと被告は前記一で認定した各時期に口頭または書面で本件契約を締結し、その後昭和五五年六月三〇日頃には全員が契約書に署名押印したが、右の締結に際しては、報酬等の約定について原告らと被告との間で特段の交渉はされず、被告の一方的に提示した契約内容を原告らが受け入れる形で契約が締結された。そして、各業務形態についての報酬体系は後記(7)のとおりであり、これらの報酬については、原告らと被告との交渉によって変更されることもあったが、原則として被告において一方的に制定・変更されていた。

(2)  原告らの被告会社における業務形態としては、積雪のない毎年三月から一二月までについては、請求原因3(三)に記載の「山おろし」、「配達」、並びに土木部門の土砂・廃材等の運搬(「貸切」の形態と、そうでない形態があった。)の三つの種類があったが、報酬等の契約条件は各業務形態ごとに予め決っており、原告らに対する日々の具体的な業務は前日または当日の作業中に被告から一方的に指示され、特段の指示がなければ原告らは午前八時までに我谷工場に集合し、午後五時まで「山おろし」の業務に従事することになっていた。これらの業務形態は原告らにおいて選択することはできず、原告らが報酬が安いことを理由に被告の指示した業務を拒否するようなことはなかった。もっとも、例えば「山おろし」の場合、原告らは通常一日約一〇往復の運送をしていたところ、一回あたりの運送量は後記(3)のとおり原告らにおいて自由に調整することはできなかったが、いわゆるノルマはなく、一日あたりの運送回数を被告から特段指示されることはなかった。そして、原告らの一か月あたりの稼働日数についてはある程度のむらがみられ、例えば昭和五五年度では原告らの稼働日数に九日ないし一〇日の差のある月が二か月(六月及び九月)あり、また昭和五四年八月から一〇月までは原告角谷慶三郎は殆ど就労していないけれども、この点を除けば原告らの就労日数はおおむねいずれも毎日二三日ないし二五日程度であった。

なお、毎年一、二月の積雪時においては砕石場が閉鎖されるので、被告は加賀市や山中町から除雪や排雪の仕事の委託を受け、これを原告らにさせていた。この場合には、被告は山中町から受け取った料金からいくらかの利ざやを控除した残額を原告らに支払っていた。

(3)  本件契約による運送業務における走行経路や走行方法については原則的に原告らの自由に委ねられており、「配達」の場合においても、被告は原告らに対し運送先、運送数量、運送品目について指示はしたが、業務遂行に関するそれ以上の指示命令は原則としてしなかった。ただ、山田砕石場からの運搬については西山田町を通過しないよう指示したことはあるけれども、これは同町の区長から交通災害の防止を目的として要請があったことに基づくものであり、その他に被告が走行経路につき原告らに指示をしたのは、工事等のため道路が閉鎖になったことによるものであった。また、原告らは走行に当たりダンプにステッカーを貼ることとされていたが、これは、山中町公害対策委員会の要請に基づき、契約先の会社を明らかにするとともに、交通事故等が起こった場合の責任の所在を明らかにするためのものであった。

しかし、被告は、原告らに対し、常時書面等で砕石は一回あたり約八立方メートル以上積載するよう指示しており(この指示を拒めば契約を解消されるおそれがあったものと考えられる。)、従って原告らは、運搬に当たってはダンプ一〇トン車に対し常時六ないし七トンの違法な過積載を実際上せざるをえない状態にあった。

なお、原告らは「山おろし」の場合には運送請負報告書を作成することを義務づけられ、一日の「山おろし」の最終回には黒瀬工場で伝票を作成することとなっていたが、これは運送回数を把握し、運送対価の計算の正確性を担保するためのものであった。また、「配達」の場合には三枚綴りの伝票を作成し、黒瀬工場へ請求伝票を提出することとなっており、さらに、「貸切」の場合には、三枚綴りの伝票を起こし、仕事の終了後現場で署名してもらい、黒瀬工場へ請求伝票を提出していた。そして、いずれの業務形態の場合にも一日ごとに作業日報を作成し、翌日被告に提出することになっていた。

(4)  本件契約による原告らの業務は前記(2)の運送業務のみであり、被告は、それ以外の被告会社の一般的な業務(集金、内部事務等)に原告らを従事させたことはなかった。

(5)  「山おろし」の場合には、前記のとおり午前八時から午後五時まで業務に従事することとなっており、遅刻や遅延欠車の場合には当日朝までに被告に連絡することが定められていた。もっとも、この連絡は被告の業務の混乱を避けることを目的としたものであり、出勤退社を管理するためのいわゆるタイムカードはなく、遅延欠車をしたことによって懲戒を受けるというようなことはなかった。

なお、「貸切」の場合も、運送時間は午前八時から午後五時までと定められていた。

(6)  本件におけるもと原告の中島誠一は、ダンプを複数保有し、自ら従業員を雇傭しており、被告は、中島誠一がどのような人を雇傭するかにかかわらず、同人の雇傭した従業員の運転するダンプに運送をさせていた。なお、原告松本健治は、かつて中島誠一に雇傭されていたが、その後ダンプを購入して独立し、被告と本件契約を締結して稼働するようになったものである。

(7)  原告らの報酬は、「貸切」の場合は一日あたりの報酬額(八時間労働で一日三万二〇〇〇円)が定められ、八時間を超えて運送業務に従事した場合には超過時間に応じてその分の対価が支払われていたが、その他の場合には、業務形態ごとに運送一回あたりにつき定められたいわゆる出来高払で(例えば「山おろし」は昭和五五年四月当時で一回あたり三五〇〇円、「配達」は距離などを勘案した配達基準表により決定されていた。)、時間給を基礎に計算されるようなことはなく、固定給部分もなかった。なお、この報酬は、月末締切翌月二五日支払で、三分の二は小切手で、三分の一は約束手形で支払われていたが、最近はこれよりも手形の割合が若干多くなっていた。

(8)  原告らは、被告から、少なくとも毎年三月から一二月までの間は他者の依頼による仕事に従事することを禁じられ(なお、本件和解により、原告らは改めて被告に専属して労務を提供することと定められたことは前記のとおりであるが、この和解条項は、この認定によれば、従前のかかる専属性を注意的に確認したものというべきである。)、被告に専属して本件契約に基づく労務を提供していた。しかし、毎年一、二月の積雪時の専属性の有無については必ずしも明らかでない。

(9)  原告らは、被告の従業員名簿、賃金台帳に登載されず、厚生年金、労災保険、源泉徴収税の適用はなく、また被告の就業規則の適用は受けず、被告の物的設備の貸与や福利厚生も受けていなかった。なお、被告は、原告らのような傭車運転手のほかに、正規の従業員としてダンプ一〇トン車を運転する運転手二名を雇傭し、原告らとほぼ同じ業務に従事させていた。

(二)  以上の諸点について検討するに、まず、本件契約の内容は被告においてほぼ一方的に決定されていたこと、原告らは業務内容の選択の自由は有しておらず、また就労日においては原則として時間的に拘束されていたこと、原告らが被告による違法な過積載の指示に実際上従わざるを得なかったことは、被告が原告らの労働力に一定程度の支配を及ぼしていたことを示すものである。このことは、原告らが運送業務以外の他の業務に従事していなかったことの故に否定されるものではない。

もっとも、本件契約においては原告らは毎月一定日数の就労義務を負うものではなかったし、一日あたりの運送回数についてもいわゆるノルマはなかったけれども、このように原告らが就労不就労の自由を有しているといっても、原告らは少なくとも毎年三月から一二月までの間は被告に専属していたのであって、生活費等を得るために就労しようとすれば被告会社の業務に従事する他はなかったのであるから、右の自由も実質的にはかなり制限されたものであったというべきであり、現に、毎月の原告らの就労日数は毎月二三日ないし二五日程度でおおむね一定していた(昭和五四年八月ないし一〇月に原告角谷慶三郎が殆ど就労していないことは何らかの特殊事情によるものと推定されるし、昭和五五年度の原告らの一か月あたりの就労日数に九日ないし一〇日の開きのある月があるといっても、それはせいぜい二月程度であるから、これらの事実をもって必ずしも右のような評価を覆すことはできない。)ことも、右のような事情の存在を裏付けるものといえる。

そして、これらの諸事情は、被告の経営政策上、原告らを傭車運転手として形式上は被告会社の組織外におきつつ、なおその労働力を把握しておく必要があることに基づくものであり、前記に認定した被告の営業目的、本件契約における業務形態及び同契約の継続性に照らせば、原告らの提供する労務は被告の事業にとって必要不可欠のものとして、被告は原告らの労働力を自己の事業運営の中に機構的に組み入れているものということができる。

そしてまた、このようにみてくると、原告らは被告の形式的な取扱においては労働者とはみなされておらず、その報酬も貸切の場合以外は出来高払で労務対償性が低いとみなされる面を包含しているというのも、右に述べたような経営政策上の必要性に基づく報酬態様の定め方の問題に帰着するといいうるから、本件契約において労務と報酬の対償性が失なわれていると認めるのは相当ではないし、業務遂行に当たっての具体的な走行経路については原則として原告らの自由に委ねられ、また少なくとも原告らと同一の業務形態であったもと原告の中島誠一には代替性が認められていたということも、本件における原告らの業務の特殊性に鑑みれば、これらの事情をもって直ちに原告らがその労働力を自由に処分しえたものと断ずることはできない。

3 次に、原告らの事業者性の有無につき検討する。

(一)  《証拠省略》に、当事者間に争いのない事実を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告らは、いずれもその業務のためにダンプ(新車で約一〇〇〇万円、中古で四〇〇万円ないし五〇〇万円程度)を保有しており、その購入について被告は何ら便宜を与えていない。このダンプは原告らの車庫に保管し、鍵は原告らにおいて保管していて、その使用権は専ら原告らにあり、被告はこれを使用する権利を全く有していなかった。

(2)  原告らの報酬は、通常、月額八〇万ないし一〇〇万円になるところ、被告の正規の社員である運転手の賃金は一八万五〇〇〇円ないし二一万円であった。もっとも、ダンプの必要経費(ダンプの月賦代金、燃料費、タイヤ代、修理費等)はすべて原告らにおいて負担し、その月額は原告一人あたり六九万四〇〇〇円前後であったから、原告らの実質所得は約一〇万ないし三〇万円であった。

(3)  原告らは、道路運送法九九条、同法施行規則(昭和二六年運輸省令七五号)五九条、土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法(昭和四二年法律一三一号。但し、昭和五九年法律六七号による改正前のもの。)により、県知事及び運輸大臣に対し砂利販売業者として届出をし、県知事から表示番号の指定を受け、また加賀市、小松市等に対し自己の職業を建材販売業として届け出ている。そして、原告らのダンプにはいずれも砂利販売業者であることを示すいわゆるマル販のマークが表示されていた。

(二)  そこで検討するに、なるほど右認定のとおり原告らは生産手段ともみることのできる高価なダンプを保有し、その使用及び保有の権利には被告は一切与っていない。しかしながら、右のダンプの保有は原告らの本件契約における就労に必要不可欠のものであって、ダンプを右のように専ら原告において保有しているというのも、むしろ前記2(一)で述べた被告の経営上の必要に基づく本件契約の特殊性ないし非典型性と表裏一体をなすものと認められる。

また、原告らの報酬は原告らと同様の業務に従事している被告の正規社員の賃金に比較して著しく高額であるけれども、原告らの就業に必要不可欠なダンプについての必要経費を控除すると、実質収入は右の正規社員と殆ど変わるところがない。そして、これら必要経費はいずれも原告らがその就業にとって欠くことのできないダンプを保有するために支出を迫られるものであり、その性質に鑑みると、原告らにおいてこれを節約する等して毎月の実質収入を高めるべく調節することは殆ど不可能というべきである。

これらの諸事情に鑑みると、原告らは自己の計算及び危険負担において事業を営む者であるとはいい難い。

4 以上を総合すると、原告らの労働力は被告の支配下にあり、原告らは自己の計算と危険負担においてその労働力を自由に処分して事業を営む者ということはできず、本件契約において原告らと被告との間には実質的使用従属関係が存し、右契約は労働契約であると認めるのが相当である。

三  本件解雇の効力について

1  被告が原告らに対し昭和五七年三月二五日本件契約を解消する旨意思表示した(以下これを「本件解雇」という。)ことは前記一で認定したとおりである。

2  本件解雇の理由として、被告は、原告らがその保有するダンプによる運送業務につき道路運送法所定の免許を受けていないため、原告らに違法行為を継続させることはできず、また被告代表者自身も処罰を受けるおそれがあることを主張している。

しかし、本件契約が労働契約であることは前記二において認定したとおりであるから、原告らは労働法上の労働者であり、労働契約上の労務たるダンプによる運送を提供してその対価たる報酬を得ているものというべきであるから、道路運送法四条、四五条の一般または特定自動車運送事業を経営する者には該当せず、同法一〇一条にいう自家用自動車を有償で運送の用に供した場合もしくは業として有償で貸し渡した場合にも該当しないと解するのが相当であって、原告らの運送労務の提供は右各法条に抵触するものとはいいえない。従って、被告が本件解雇の理由として主張する原告らの就労の違法性は認められない。

また、被告は、関係官庁に問い合わせたところ、右解雇理由に沿う回答を得たと主張するけれども、《証拠省略》によれば、右の回答はいずれも一般論を述べたにとどまり、具体的に原告らの就労が違法であり、また被告自身も処罰を受けるおそれがある旨回答したものではないことが認められ(る。)《証拠判断省略》

そして、いわゆる傭車運転手の労働者性の有無の問題は、その態様により一義的解釈は困難であり、事案によってその判断にかなりの差異が生じうることが予想され、従って、判例上あるいは行政解釈上においても、その一般的判断基準につき確定的判断は示されていない状況であって、いわゆる「三省の取扱案」(弁論の全趣旨によれば、その内容は原告ら主張のとおりであることが認められる。)に示す如く、行政指導により合理的解決を図ろうとすることが検討されていることに鑑みれば、本件において被告が前記のような理由をもって原告らを解雇したことは性急に過ぎ、必ずしも真実十分な理由のあるものとはいい難い。

従って、本件解雇は解雇権の濫用に当たり、無効であるというべきである。

四  結論

以上によれば、原告らは現在もなお被告と労働契約上の権利を有する地位にあることとなり、その請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本栄一 裁判官 春日通良 原啓一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例